新年にあたって

あけましておめでとうございます。

これまで、ITプロジェクト管理の問題をいろいろ見てきましたが、日本のソフトウェア問題の本質は方法論などのテクニカルな問題ではないことが分かってきました。2004年末から書いている「ITプロジェクト管理考」は技術の問題から出発しましたが、次第に経営や制度の問題に移ってきました。日本のITプロジェクト管理の問題点を探るうちに、本質的な問題が技術にあるのではなく、経営や制度にあることが分かってきたからです。ITプロジェクト戦略に述べたように、ITプロジェクト管理は総合的な戦略の問題であり、技術はその一端を担っているに過ぎません。多重下請け構造はITプロジェクトの成否に大きく影響していますが、これは技術の問題ではなく、経営の問題です。技術が如何に優れていても、末端の技術者の“生き血”を吸って生きながらえる(いわばネズミ講の)トップ企業の考え方が変わるか、崩壊するかしなければ、実際に仕事をこなす技術者のやる気を削いでしまうことになります。

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時間指向

ITプロジェクトの完了時期は、プロジェクト開始時点から半年後、1年後、あるいはそれ以上ということもありますから、プロジェクトが完了したときにはプロジェクト開始時期の目標は変化しているかもしれません。つまり、プロジェクトのおかれた環境は時間経過とともに変化しますので、目標の変化は当然といえるでしょう。このことは自動車、家電製品などについても同様ですが、とりわけ企業情報システムは環境の細かな変化に合わせシステムを更新していかなければならないため、環境変化の影響を一層強く受けます。従って、このような情報システムは変化に強いアーキテクチャ設計にする必要があります。また、情報システム開発のプロジェクト管理も臨機応変に対応できるようにする必要があります。つまり、情報システム設計環境もプロジェクト環境も静止していることはないので、変化を前提としたアプローチ法を採らなければなりません。それが具体的にどのようなものか判然としているわけではありませんが、“時間指向”とでも呼んでおきます。ITの進歩と社会システムのIT化が進むにつれて社会の変化を手早く情報システムに反映しなければならなくなってきました。本稿では、変化に強いソフトウェアの設計とプロジェクト管理がどうあるべきか、企業情報システムを中心に考えるところを述べたいと思います。

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断末魔の叫び

2008年8月3日のNIKKEI NETに、富士通が東証トラブルを受け障害対策専門組織を発足させたという記事が出ているのを読んで、ここまで来たかと驚いています。「経験豊富な技術者を約20人集め、東証をはじめ大規模な社会インフラシステムの障害防止や復旧支援を手掛ける」とのこと。東証の問題はITプロジェクト管理の常識からすれば「あとの祭り」なのです。2,3ヶ月の仕事で失敗したのではなく、長期間かけて構築したシステムですから、管理を怠らなければこのような事態に陥らない手立てを打つタイミングはいくらでもあったはずです。かくいう私自身、ある泥沼プロジェクトの原因を作ってしまった張本人ですし、また、そうしたプロジェクトの救済に何度も駆り出され、馬車馬のように働いた経験から、その舞台裏が手に取るように分かります。富士通に限らず、大手システムプロバイダーは口いっぱいに仕事を頬張って、消化しきれずにいます。ITゼネコンの多重下請けのトップの企業としては仕事を断れないのかもしれませんが、能力以上の仕事を受注してしまったつけが今来ているのでしょう。戦線拡大を続けてにっちもさっちも行かなくなっているのではないかと思います。私は、この記事を大手システムプロバイダーの断末魔の叫びと受け取っています。

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ITプロジェクトにおける異能の価値

私は経済学についてまったく知らないのですが、「市場・知識・自由 -自由主義の経済思想-」(F.A.ハイエク 田中真晴/田中秀夫編訳、ミネルヴァ書房)というハイエクの論文を収録した書籍の第二章に「社会における知識の利用」(American Economic Review,XXXV,No.4,September 1945,pp.519-30から転載。)という論文(訳)があり、興味を感じて読んでみると、その第1節に、

合理的な経済秩序の問題に特有な性格は、われわれが利用しなければならない諸事情の知識が、集中された、あるいは統合された形態において決して存在せず、ただ、すべての別々の個人が所有する不完全でしばしば互いに矛盾する知識の、分散された諸断片としてだけ存在するという事実によって、まさしく決定されているのである。したがって社会の経済問題は、『与えられた』資源をいかに配分するかという問題だけではない―『与えられた』ということが、それらの『データ』によってセットされた問題を、熟慮して解くひとりの人間の知性に対して与えられていることを意味するのであるならば、その問題だけではないのだ。社会の経済問題はそれよりもむしろ、社会のどの成員に対しても、それぞれの個人だけがその相対的重要性を知っている諸目的のために、かれらに知られている資源の最良の利用をいかにして確保すべきかという問題である。すなわち簡単に言うならば、どの人にもその全体性においては与えられない知識を、どのように利用するかの問題である。

と書かれています。

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ITプロジェクト管理力が活きる下地

ITプロジェクト管理考の前書きで、日本のソフトウェア企業のITプロジェクト管理力が育たないのは何故かを問い、その後思いつくままに書き綴ってきましたが、前稿:ソフトウェア事業と共同体を書き終えたとき、ソフトウェア産業構造に疑いを持つようになりました。ITプロジェクト管理力をつけ、活かすには下地ができていなければならないのではないか。下地とはITユーザ企業やソフトウェア企業経営者のITプロジェクト管理に対する認識や取組み、産業界の活動、法制度などを指しています。残念ながらこれまでのところ下地ができていないということです。IT(情報技術)は社会や企業、個人の生き方を支援する強力な手段です。これを生かすも殺すも使い方次第です。ITプロジェクト管理はITシステムの構築・維持(保守、更改)を合理的に行う手法であり、これを旨く使いこなすには下地がなければならないということです。

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