プロジェクト管理がテーマですが、古来から使われている不易流行、諸行無常という見方がプロジェクト管理においても必要であることを話題にします。
角川の最新国語辞典で不易流行という用語を引くと、「不易流行という言葉は芭蕉が唱えた徘徊の基本理念で、永久に変動しないものと、つねに新しくなって行くもの。つねに新風を求めて変化流行するところから永遠性をもつものが生まれるということ。」と書かれています。また、不易流行の『流行』に似た言葉として諸行無常があります。これについて同じ辞書に「この世のものはすべて移りかわって、わずかのあいだもとどまっていない、という仏教の根本思想。」と書かれています。
このような観点から私たちの周りをみると、殆どのことは諸行無常です。しかし、一旦情報化してしまうと時間が止まって諸行無常ではなく、不易になってしまいます。解剖学者の養老孟司氏が「虫の虫」という本の中で、「すでに述べたけれども、情報は時間とともに変化しないものを指す。そういうものは実は意識の中だけにしかない。現代人は意識中心で、自分自身を情報と見なすから、「同じ自分」になってしまう。」(81ページ)と書いています。自然現象や社会現象を書き物にしてしまうと、そこで情報化され、不易になってしまうと述べています。
ソフトウェアは自然や社会の動きなどをプログラミング言語で書いたものですから、不易の世界に属することになります。しかし、一つひとつのソフトウェアに注目すると、いつまでも変わらないものはありません。各ソフトウェアへの要求は日進月歩で変化しています。その要求に応えなければそれは使われなくなってしまいます。そういう意味では、ソフトウェアは不易なものであり、諸行無常の世界に属するものでもあります。鴨長明の方丈記に「行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし。世の中にある、人と栖と、またかくのごとし。」とありますが、ソフトウェアは河の流れに喩えられる存在かもしれません。
不易なものの代表かと思われるソフトウェアが必ずしも変わらないものだと言い切れないとすれば、いつまでも変わらないものに何があるのでしょうか。変わらないものの代表格は数学の理論です。一度発見されると何千年経っても変わることがありません。ソフトウェアで使われるアルゴリズムも数学の理論と同様に変わらないものです。
このように見ると、自然や社会は「うたかた(泡沫)」のように変わり続けていますが、如何なる縛りもなく、自由に振る舞っているのではなく、不易の世界の拘束を受けて、その中で振る舞っているのだと想像できます。
人の扱いが対象となるプロジェクト管理について考えるとき、プロジェクトに関係する諸要素が諸行無常の世界に属するのか、不易の世界に属するのかを意識しておかなければなりません。なぜなら、不易なものは変化流行するのものを支配するからです。プロジェクト組織や管理手法は時代と共に変化しますが、変化しないものを見極めておけばプロジェクト管理の要諦を踏み外すことがないからです。
プロジェクト管理における不易なものを10点挙げておきます。
- 人は齢をとる
- 1人の知識ではプロジェクト全体をカバーできない
- プロジェクトメンバーはプロジェクトに関連する知識を共有しなければならない
- 人は手順を踏まなければ考える力を発揮できない
- 知識は形式知と暗黙知を融合したものである
- プロジェクトのメンバーは入れ替わる
- プロジェクトの維持に知識継承が必須である
- 人は常に間違え、失敗する
- プロジェクトメンバーの意欲・体力がなければプロジェクトは維持できない
- プロジェクトにも戦略が必要である
これらは(1.を除く)これまで書いた稿の中から拾い上げたものです。ですから、改めて一つひとつの説明はしません。
プロジェクト組織や管理手法は時代と共に変化しますが、そうした変化する世界のものは上記の不易なものに支配されているのだということを意識しておくことは大切です。 ■