プロジェクト管理における暗黙知と形式知(その2)

知識は暗黙知と形式知の組合せで成立つものです。ITプロジェクトにおける組織的知識創造の仕組みを考えるとき、両者を一体のものとして捉える必要があります。このことは、知識の蓄積場所を見ると、より明らかになります。

知識の種類 蓄積場所
暗黙知 人の頭脳
形式知 紙、電子媒体など

図1 知識の蓄積構造

図1に見るように、知識は形式知と暗黙知が一体となったものです。知識は、紙や電子媒体に蓄積された形式知と、それを読んだ個人の頭の中にある暗黙知とが一体となって構成されます。「知識創造企業」には、形式知は知識の氷山の一角であると書かれています。知識の量から言えば、暗黙知の方が形式知よりもはるかに多いのです。知識を形式知として紙に書き出しても、知識のほんの一部しか書き表せません。知識の殆どが暗黙知のまま残されています。

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プロジェクト管理における暗黙知と形式知(その1)

名著「知識創造企業」(野中郁次郎+竹内弘高、東洋経済新報社、原書:The Knowledge-Creating Company)の序文に次のような主張が述べられています。

 この本で我々は、人間の知識を二種類に分けている。一つは「形式知(explicit knowledge)」と呼ばれ、文法にのっとった文章、数学的表現、技術仕様、マニュアル等に見られる形式言語によって表すことができる知識である。この種の知識は、形式化が可能で容易に伝達できる。またそれは、西洋哲学の伝統において主要な知識のあり方であった。しかしあとで論じるように、より重要なのは、形式言語で言い表すことが難しい「暗黙知(tacit knowledge)」と呼ばれる知識なのである。それは人間一人ひとりの体験に根ざす個人的な知識であり、信念、ものの見方、価値システムと言った無形の要素を含んでいる。暗黙知は、人間の集団行動にとって極めて大事な要素であるにもかかわらず、これまで無視されてきた。それはまた、日本企業の競争力の重要な源泉でもあったのである。これが、日本的経営が西洋人にとってな謎であった大きな理由であろう。

 西洋哲学の主流においては、知識を所有する主要な主体は個人である。しかし我々は、個人と組織は知識を通して相互に作用し合うと見る。知識創造は、個人、グループ、組織の三つのレベルで起こる。したがって、我々の組織的知識創造の議論は、知識の相互作用の様式と知識創造のレベルの二つの大きな部分から成っている。暗黙知と形式知、個人と組織の二種類の相互作用は、(1)暗黙知から形式知へ、(2)形式知から形式知恵へ、(3)形式知から暗黙知へ、(4)暗黙知から暗黙知へ、という知識変換の四つの大きなプロセスを生み出すのである。

著者の洞察の深さには驚かされます。本書は組織の知識構造を解明しています。そして、「(1)暗黙知の共有、(2)コンセプトの創造、(3)コンセプトの共有化、(4)原型(アーキタイプ)の構築、(5)知識の転移」からなる「組織的知識創造のファイブ・フェーズ・モデル」を提示しています。その上で、企業の組織論を展開しています。本書は、ITプロジェクト管理については触れていませんが、本質は同じと考えます。

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計測

プロジェクト管理の基本は計測です。プロジェクトが現在どのような状況になっているかは計測することなしに把握できません。プロジェクトでは、人が作業を行い、ドキュメントやプログラムを生産します。プロジェクトは期限内に作業を完了させる必要があります。そのため、適切な手順で作業を進める必要があります。例えば、上流工程から下流工程に向けて、要求仕様設計(外部仕様設計)→構成(構造)仕様設計→詳細仕様設計→コード化→テスト→評価の順に作業して行きます。各工程の作業に誰を割り当てるかは大変重要なことです。そのためには、生産物の種類、規模や難易度を見積もる必要があります。見積りについては別稿で説明しますが、見積りと計測は密接に関連しています。計測という行為なしに見積りはできません。新しいプロジェクトの見積りには過去のプロジェクトで得られた計測データや試験的に行って計測したデータを参考にするのです。

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開発ツールと作業標準

開発するシステムの種類と開発方法論」で書きましたが、1970年代までは、ソフトウェア開発ツールといえば、コンピュータ言語がすべてでした。コンピュータ開発の黎明期には機械語を記号化しただけのアセンブラ言語は生産性を大幅に向上させました。その後開発されたCOBOL言語やFORTRAN言語は画期的な大発明でした。これらの言語は自然言語(英語)に似せた構文を持ち、記憶し易く、アルゴリズム表現を格段に容易としました。

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開発方法論は星の数ほどある

一言でソフトウェアシステムと言っても、顧客の販売管理システム、生産管理システム、事務処理系パッケージソフト、技術系パッケージソフト、携帯電話などの組込みソフト、コンピュータのオペレーティングシステム、コンパイラ、RealTimeシステム、Webコンテンツサービスソフト、バンキングシステム、・・・ など多岐多様です。これらのシステム毎に、必要とする技術・技能・知識、体制・組織、人数、管理方法、などは異なります。その規模や複雑度、必要とする背景知識、業種/業務ノウハウなども異なります。このように、余りにも異なるソフトウェアシステムの開発を、1つや2つの開発方法論で片付ける訳には行かないだろうということは、専門家でない人達にも想像がつくことだと思います。

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