Archives for : プロジェクト管理

ソフトウェアは知の媒体

日本はソフトウェアに関する基礎教育を学校教育として行うべきだと私は考えています。現在の情報に関する学校教育は情報技術を使う能力(情報リテラシー)に重点がおかれていますが、ソフトウェアの基礎ともいうべき教育、即ち情報とアルゴリズムについて国語や数学と同じレベルで学ぶことが将来の人材育成にとって必要であると思います。知の媒体として1960年代に新しく登場したソフトウェアはそれまで表現できなかったある種の知を表現できるようにしました。本稿ではソフトウェアによって表現可能となった知とその重要性について概観し、情報とアルゴリズムについての教育の必要性について述べたいと思います。

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クラウドコンピューティング

クラウドコンピューティングはGoogleの経営トップが使い始めたことばだと聞いています。クラウドとは雲の意味(インターネットのネットワークを図示すると雲のように見えるのだそうです。私は楕円形を使いますが)で、インターネットの先にあるコンピュータ資源を誰もが自由に使えるようになり、自前のコンピュータ(サーバ)やアプリケーションは不要になると言われています。「クラウド」にはリソースの所在が利用者に見えないという意味もあるそうです。これは少し不安になります。
概ねこのような解説がついて、将来、クラウドコンピューティングが支配的になるというようなインフォマーシャル記事(情報を提供するタイプのコマーシャル記事)が新聞や雑誌などで紹介されるようになりました。

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なぜソフトウェア企業は東京圏に集まるのか

前稿:ソフトウェア事業と共同体で述べたように、東京圏の人口の全国比が27%であるのに対し、ソフトウェア業従事者に関しては東京圏は61%です。なぜ、このようにソフトウェア業従事者が東京圏に集中しているのでしょうか。先ず、日本の産業の変化を私の個人的な体験から述べたいと思います。1967年、私は社会人としてある通信機メーカーに入社しました。当時、この会社には東京圏に4つの事業所がありました。そこでは多くの技能技術者が働いていました。設計とものづくりが一体となった工場で、部品の多くは社内もしくは国内他社から調達していましたが、1980年代の半ばには、事業の発展とともに工場は人材を求めて地方に移り、東京圏の事業所は設計・研究開発拠点に変化して行きました。ソフトウェア開発についても地域の人材を求めて日本各地にソフトウェア開発事業所が作られました。1990年代になると、経済のグローバル化の進展や冷戦終結に伴って、海外の低賃金の労働者が市場経済に参入し、部品は海外調達が多くなり、国内工場の一部は海外に移転しました。東京圏には、若干の製造業もありますが、企画・技術・事務・営業部門などに集中し、現在に到っています。また、金融業や各企業の本社機能が利便性を求めて東京圏に集まってきました。そしてグローバル化と共に地域では工場が減り、地域の労働者は東京圏に行くか、東京の仕事を地域で行う比率が高まりました。

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新年にあたって

あけましておめでとうございます。

これまで、ITプロジェクト管理の問題をいろいろ見てきましたが、日本のソフトウェア問題の本質は方法論などのテクニカルな問題ではないことが分かってきました。2004年末から書いている「ITプロジェクト管理考」は技術の問題から出発しましたが、次第に経営や制度の問題に移ってきました。日本のITプロジェクト管理の問題点を探るうちに、本質的な問題が技術にあるのではなく、経営や制度にあることが分かってきたからです。ITプロジェクト戦略に述べたように、ITプロジェクト管理は総合的な戦略の問題であり、技術はその一端を担っているに過ぎません。多重下請け構造はITプロジェクトの成否に大きく影響していますが、これは技術の問題ではなく、経営の問題です。技術が如何に優れていても、末端の技術者の“生き血”を吸って生きながらえる(いわばネズミ講の)トップ企業の考え方が変わるか、崩壊するかしなければ、実際に仕事をこなす技術者のやる気を削いでしまうことになります。

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時間指向

ITプロジェクトの完了時期は、プロジェクト開始時点から半年後、1年後、あるいはそれ以上ということもありますから、プロジェクトが完了したときにはプロジェクト開始時期の目標は変化しているかもしれません。つまり、プロジェクトのおかれた環境は時間経過とともに変化しますので、目標の変化は当然といえるでしょう。このことは自動車、家電製品などについても同様ですが、とりわけ企業情報システムは環境の細かな変化に合わせシステムを更新していかなければならないため、環境変化の影響を一層強く受けます。従って、このような情報システムは変化に強いアーキテクチャ設計にする必要があります。また、情報システム開発のプロジェクト管理も臨機応変に対応できるようにする必要があります。つまり、情報システム設計環境もプロジェクト環境も静止していることはないので、変化を前提としたアプローチ法を採らなければなりません。それが具体的にどのようなものか判然としているわけではありませんが、“時間指向”とでも呼んでおきます。ITの進歩と社会システムのIT化が進むにつれて社会の変化を手早く情報システムに反映しなければならなくなってきました。本稿では、変化に強いソフトウェアの設計とプロジェクト管理がどうあるべきか、企業情報システムを中心に考えるところを述べたいと思います。

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