今回はプロジェクト管理とは全く異なる話題:東日本巨大地震を取り上げます。地震とプロジェクト管理は関係ないのですが、実態の把握と対策という点では同じで、いくつかの地震関連情報を見ていると注視すべき点が浮かび上がってくるものですから、場所柄をわきまえず、ここで敢えて取り上げました。
この分析を始めようとしたきっかけは3月11日地震発生後、3月12日の未明には新潟県中越地方、長野県北部、千葉県東方沖、秋田県沖などで地震が発生しているので、次に何が起きるか分からない不安を感じたからです。誰もはっきりと答えられない状況では自分でデータを見てこうなるはずだと確信を持ちたかったということや、先の新潟・長野・秋田・千葉の地震や3月15日に発生した静岡県東部の地震と三陸沖地震との関連性は分からないという専門家の発言が動機になりました。
専門家は誰が聞いても間違いないことだけを述べ、確信が持てないことは発言しないというのが常識です。その道で生きて行くには学界・業界の信認が必要となるから当たり前のことです。その点ど素人の私には失うものは何もありませんので自由に発言することができます。だからと言って根も葉もないことを言うことはできません。データを示し、その解釈について私見を述べるということになります。
今回の東日本大地震については関連情報として次の4つを調べました。
(1) | 日本近海の海底地形図 |
(2) | 日本近海のプレート |
(3) | GPSによる地殻変動測定 |
(4) | 2011年3月9日以降、震度3以上の地震速報 |
地震は地殻内の動きですから通常の地図を見ていてもごく狭い範囲の陸地での動きしか見ることができないので海底地図を探したところ、海上保安庁第九管区のホームページがありました。(現在このページは削除されていましたので、海上保安庁の海洋情報部のプレート境界域の精密海底地形図を参考にしました。)
この海底地形図に日本近海のプレート:ユーラシアプレート、北米プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートと呼ばれている図(総理府の「地震調査研究推進本部」)を重ね合わせてみると海底地形図の海溝と呼ばれているところを境にしてプレートが確認できます。北米プレートとユーラシアプレートの境がどこかが分かりにくいのですが、太平洋側の駿河湾・相模湾、日本海側の富山湾が深くなっていることからここにあるのだということが海底地形図上に読み取れます。
プレート型の地震はプレートの移動に起因しているそうですですが、国土地理院のGPSによる地殻変動測定を参照すると東日本巨大地震に伴って東日本が大きく東南東の方向へ大きくずれたことが分かります。図1は地震前の1年間の移動状況を、図2は地震直後の移動状況をベクトルで示しています。 図1、図2は観測の基点を青森県日本海側の岩崎に固定し、この基点と他の観測点の変位がベクトルとして表示されています。当然ですが、地震前後で岩崎の基点自体の変位はゼロとなります。
図1によると東日本(北米プレート)の太平洋側から内陸部にかけて1年前から西北西に1cm~2cm移動しているように読めます。地震直後(図2)では三陸地方を中心に東へ大きく移動しています。図2ではベクトルが図からはみ出しているため読み取れませんが、国土地理院の別のデータによると、島根県三隅を基点としたもので、牡鹿半島付近が東南東に約530cm移動しています。図1と図2から東日本が今回の地震により西北西に移動していた状態から一気に東南東に方向転換して大きく振れたことが分かります。東南東への移動は地震後も続き、約1週間で三陸の山田で25cm、銚子で17cmです。そして現在も続いています。
これらの移動距離はあくまでも地上の観測点のものです。海上保安庁の報告書「宮城県沖の海底が24メートル動く~東北地方太平洋沖地震に伴う海底の動き~」によると、震源地のほぼ真上の海底が東南東に約24m移動したと報告されています。
太平洋プレートは東日本(北米プレート)を東から西へ押し続け、毎年約7,8cm移動しているそうで、早晩東南東への移動は止まり、再び西北西へ移動が開始するはずです。この転換点では、太平洋プレート側の押し戻しによる歪みが生じているはずですから、もう一つの地震が発生してもおかしくないと考えられます。
図1と図2の着目点は東日本(北米プレート)の日本海側とその内陸部のベクトルの方向です。図1ではこれらの地域のベクトルは東西南北マチマチの方向を向いています。これらの地域は西から押しているユーラシアプレートと東から押している太平洋プレートの圧力を受けてそのような状態になっているのではないかと考えられます。
もう1つの着目点は図1の太平洋側とその内陸部のベクトルの長さです。太平洋プレートからの圧力が常に同じであれば弾性のある物体は初めは勢いよく縮むが、時間経過に伴い内部の圧力が高まり僅かしか縮まなくなります。今回の地震前1年間の移動が1cm~2cmであり、これは圧縮の限界に達していたと思われます。
東日本の日本海側とその内陸部のベクトルの方向がマチマチであること、太平洋側とその内陸部のベクトルの長さが1cm~2cmと短くなっていること(比較データは図5、6の近畿・中国・四国地方)が今回の地震発生の直前(と言っても年単位)の状態だったということができるのではないでしょうか。
私は今回の地震発生直後から気象庁の地震情報のホームページに掲載の震度3以上の「震源・震度に関する情報」をExcelファイルに保存してきました。この情報は2011年3月12日から見てきたのですが、3月9日からの情報が残されていました。3月9日11時45分頃に三陸沖でM7.2、震度5弱の地震が発生し、立てつづけに9日から10日にかけてM6前後の地震がこの地域で発生しています。そして3月11日14時46分頃にM7.9(気象庁マグニチュード、モーメントマグニチュードではM9.0)の巨大地震が発生しています。気象庁の地震関係者や、地震学者は既に9日か10日の時点で只事ではない事態が進行しつつあると思われていたのではないかと推察しています。今回の地震は3月11日14時46分頃に発生したのではなく3月9日11時45分頃から始まっていたと考えた方が地盤の破壊という現象から捉えると理解しやすいのです。地震はべき分布に従うという見方があるようです。しかし、本震の2日前からの前兆を含めて考えると、べき分布ではないもっと複雑なものと見なければならないでしょう。
「震源・震度に関する情報」から余震の震源の移動も読み取れます。特徴的なのは三陸沖・茨城県沖・岩手県沖・宮城県沖から北米プレートのへりをぐるりと回って長野県北部・新潟県中越地方・千葉県東方沖・秋田県沖で地震が発生し、震源が日が経つにつれて次第に内陸部や静岡県東部ヘと移動していることです。そして2か月くらい経つと次第に震度3以上の地震は減少しています。しかし、震度1,2クラスの地震はその後もしばらく続き、6月10日時点でも1日に10数回観測されています。
さて今後どうなるのか。建築研究所の古川信雄氏は、北緯37度以南の茨城-房総半島沖が地震空白域なので警戒が必要と述べています。この地域では1677年にM8の地震が起きています。それに加えて先に述べた東日本(北米プレート)の東南東への移動が止まり西北西への移動に転換する時期にそれまでとは逆の方向へ動く地震が発生するのではないかと考えられます。その後は東日本各地に生じた歪みを解消する局地地震が繰返されるのだろうと思います。
ここで、これまで連動型巨大地震が迫っていると言われている東海・東南海・南海地域が今回の地震の影響を受けたのか、今後どのような動きをするのか推測してみたいと思います。再び国土地理院のGPSによる地殻変動測定を参照します。
図3と図4はそれぞれ今回の地震の前1年間と直後の関東・中部地域の各観測点のベクトルを表示しています。図5と図6はそれぞれ地震前後の近畿・中国・四国地域の各観測点の移動ベクトルを表示しています。
図3と図4の各観測点の基点は青森県の岩崎であるため、地震直後のすべての観測点のベクトルは北西方向へ大きく移動していますが、これは岩崎が東南東に大きく移動したことによるベクトル変位であると見做せます。従って、図3と図4との比較からは正しい結果は見つけられません。しかし、国土地理院の島根県三隅を基点とする各観測点ベクトル変位と図3とを比較すると、関東地域の太平洋側は地震前1年間で西北西乃至北西方向に移動していたのが、地震直後には僅かに東に移動しています。また、図3によると中部地方内陸部のベクトルがマチマチの方向を向いていることは、この地域が東西から圧力を受けている状況にあると読めます。
図5と図6の各観測点の移動ベクトルは殆ど変りがありません。このことは近畿・中国・四国地域は今回の地震の影響を殆ど受けていないということでしょう。図3と図5を比較すると、青森県岩崎を基点とする図3では中国地方の観測点はことごとく東へ移動し、兵庫県日高を基点とする図5では中国地方の観測点のベクトルはマチマチの方向を向いていることは、岩崎の観測点が地震前にも西へ移動していたと解釈できるのではないでしょうか。
図5、図6で着目すべきは、中国地方の各観測点のベクトルの方向がマチマチであり、これはユーラシアプレート上にあるこの地域がフィリピン海プレートとぶつかって圧力の逃げ場を失っている状況ではないかと思います。そして太平洋側とその内陸部の各観測点のベクトルの長さは2cm~3cmで、まだ東北地方に比べると弾性に余裕があるように見えます。報道によると東海・東南海・南海地方には数十年以内に連動型巨大地震が発生すると聞いています。この地域一帯の弾性は間もなく失われると考えられます。その時期は分かりませんが、本震の1~2日前に前兆地震(ある地域で連続するM7クラスの地震が起こる)が発生することもあると考えておく必要があるのではないかと思います。勿論、複雑な地殻内の破壊が東北地方と同じだと考えることはできませんが。
図2 GPSによる地殻変動測定(東北)地震直後
図3 GPSによる地殻変動測定(関東・中部)地震前
図4 GPSによる地殻変動測定(関東・中部)地震直後
図5 GPSによる地殻変動測定(近畿・中国・四国)地震前
図6 GPSによる地殻変動測定(近畿・中国・四国)地震直後
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