経営者と現場の管理者・技術者との間に認識ギャップがあり、コンサルタントとして戸惑うことがあります。経営者は自社のプロジェクトに問題があると感じ、当方に相談に乗って欲しいと声をかけてくるのですが、お客様を訪問し、現場の管理者・技術者と面談すると、いろいろ話している内に迷惑そうな顔をするのです。少々問題をかかえているが、ほどほどに進行していると思われるプロジェクトのリーダに対して、具体的な問題点を指摘すると、「それは、自分達も分っている。今、対策を打っているので、近々解決する見込みだ」などと言って断られることがあります。
メインフレーム(汎用機)全盛期のころ、顧客はコンピュータの知識を殆どもっていませんでした。メーカの技術者はどんな知識でも売りものになりました。知識を持てる立場にあったメーカの技術者は顧客から重宝がられたものです。自分は専門家で、相手は素人。この間には優越感が漂います。中には、相手が上司であっても、小ばかにしたような態度をとる技術者を見かけることもありました。
顧客やベンダの、かなり横柄な態度の技術者に遭うこともあります。このような技術者がプロジェクトに1人でもいると始末に終えません。プロジェクトをぶち壊してしまうのです。プロジェクト・リーダもこのような技術者を疎ましく思っているのでしょうが、外すわけにも行かず、そのままにしてしまうことが多いようです。
他にも、似たケースは沢山あると思われます。いずれのケースも、あまり表立って論じられることはなく、放置されているのが現状です。
何故、そういう態度の技術者・管理者が現われるのでしょうか。私は、自尊心(プライド)が関わっていると考えています。誰でも自尊心はあります。自尊心が技術者・管理者のやる気を支えています。ところが、自尊心が裏目に出ると、プロジェクトにとって、望ましくない方向に働いてしまいます。上に挙げたケースはこれに該当すると考えられます。
次表は自尊心が技術者・管理者に及ぼす影響について、私の理解をまとめたものです。
(Ⅰ) | ・ やる気 ・ 向上心 |
(Ⅱ) | ・ 独りよがり ・ 他者の能力否定 ・ 助言の拒絶 (助言は自己の評価が悪いためと解釈し、拒否反応を示す) |
(Ⅰ)は旨く働いているケースです。(Ⅱ)はまずいケースです。
ソフトウェア開発は、多くの技術者・管理者が、全体業務を細分化し、いろいろなタイプの仕事を分担して作業しますので、プロジェクト・リーダが個々の業務内容を掌握できないことがあります。特に、新技術を導入した場合、多忙な管理者は勉強する時間がなく、部下を指導する立場を失うことがあります。技術的には部下に負けているので、指導力が弱くなってしまうのです。
プロジェクトで仕事をするということは、異なる能力を持つ人々が集まって協力しながら、プロジェクト全体のパワーを最大に引き出すことです。プロジェクトメンバに自尊心の(Ⅱ)の面が出てくると、プロジェクトは危うくなります。
ソフトウェア開発に携わる技術者・管理者は自尊心の(Ⅱ)の面を出してはいけません。謙虚でなければなりません。技術が劣る人、物分りの遅い人を軽蔑するような態度は厳に慎まなければなりません。プロジェクトに現在いる人達が最善の人達なのです。如何に協力して、最大限のパワーを発揮してもらうかを工夫する必要があります。
プロジェクトのメンバが自尊心を傷つけられ、完全に失っているときがあります。自分達のやり方でプロジェクト管理を行った結果、プロジェクトがどうしようもない状況に陥っている場合です。こう言う状況は、改善のチャンスとなります。自尊心が失われたときほど人が素直になるときはありません。このような状況のプロジェクトの技術者・管理者は失うものが何もありません。コンサルタントの助言を素直に受け入れてくれます。コンサルタントとしても、最大限の努力を惜しみません。お互いに腹を割って話し、一緒に問題解決の糸口を見つけ、改善に邁進することができます。一つの問題点を改善する度に、プロジェクトに活気が出てきて、良い方向に動き出します。
ならば、プロジェクトが危機的状況になる前に何とかならないものかと考えるのが普通です。ほどほどにうまく行っているプロジェクトの技術者・管理者はそう簡単に自尊心を捨てないのです。抑制が効いた技術者・管理者は、自尊心はじゃまだと考えています。自尊心を如何にして捨てるか考えています。努力して、頑張っている技術者・管理者ほど自尊心を持たないよう努力しているのです。これに成功すれば、本音で勝負ができることを理解しているからです。 ■