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日経新聞記事「システム開発の手順統一」を読んで
  
 前回、日経新聞の記事に対して「記者はプロでしょ!」を書きましたが、今度はもっとまともな、しかも大切な記事を日経新聞が載せているので、この記事を受けて将来に向けた経済産業省への期待を書きたいと思います。

 2007年6月29日の日経新聞に「システム開発の手順統一 富士通・日立など情報大手8社 顧客企業と障害防止へ基準」というヘッドラインで、「富士通、日立製作所など情報システム大手8社は東京電力など顧客企業と共同で、システムの障害を防ぐための統一基準を作る。開発や運用の手順・用語を細かく定めてミスを防止し、顧客との相互チェックも容易にする。9月下旬にも文書にまとめて業界に配布し、中小企業の採用も促す。企業経営や社会生活に影響するようなシステムトラブルが多発する中、国内シェアの8割を占める8社が事実上の国内標準をまとめて対策を急ぐ。
 システムを開発する際の手順を決める仕様書や、仕様書で使う用語に明確な業界標準はなく、情報システム各社が独自で定めている。ところが、大規模なシステムを開発する際に複数の大手企業や下請け企業がかかわるケースが増え、手順などの不統一で意思疎通を欠く結果、設計ミスが起こりやすいと指摘されていた。顧客側も工程を管理することが難しかった。」
とあります。記事の最後には、経済産業省や東京国際大学などとも連携すると書いています。

 ITジェネコンなどと揶揄されるIT業界ですが、実際には多段階発注構造の弊害を指しているだけで、本家のジェネコンの方がよほどしっかりした管理を行っています。システム開発は建築基準法に相当する法律で規制されているわけでもなく、各社が独自のやり方でシステム開発を行っているのが実情です。そうした中、国のインフラともいうべき大規模情報システムが事故を起こし、社会に迷惑をかけています。このような事態を放置していてはまずいということで、情報大手数社が中心にシステム障害を防止する統一基準を作ることになったのだと思います。

 システム開発は、端的に言ってしまえば、リソース(人、もの、金、時間)が十分にあれば、信頼性を高くすることは可能です。ところが、年々システム開発の需要が増え、人材育成がままならず、現実にはちょっとしたプログラミングができれば、システム開発を担わせているのです。プログラマだけでなく、システム技術者、技術管理者までも、素人同然の人達に任せることさえあります。優れたノウハウを持つ企業、あるいは部門は確かに存在します。しかし、そうしたノウハウをその企業や部門内に留めることなく、国内で共有することを推進しなければ、日本のシステム開発能力は向上しないでしょう。 当然、企業内に留めたいノウハウはありますが、各社が内向きになっていては日本のソフトウェア産業自体の発展が阻害されてしまいます。

 上記の記事の「システム開発の統一手順」の具体的な内容が見えない現在ではこれ以上コメントできませんが、この統一手順の狙いは経済産業省が2006年6月15日に公表した「情報システムの信頼性向上に関するガイドライン」と一致します。このガイドラインはわずか25頁のものですが、良くまとめられていて、情報システムの信頼性向上に関して、ここまでやれば相当な成果が達成できるものと思われます。しかし、あくまでもガイドラインであり、拘束力はありません。

 業界の善意に頼ったり、ガイドラインとして遵守すべき事項を提示しても、世の中はなかなか変わりません。ガイドラインを読むと、法律で規制しても良いのではないかと思われる項目もあります。ガイドラインの何箇所かには「重要インフラ等システムに相当するもの或いは広く経済的、社会的影響を与えるもの(システム)」という表現が使われていますが、このようなシステム開発に関しては、必要な組織の設置、作業プロセスや基準書の作成および所轄官庁の監査を義務付けても良いと考えられます。

 排ガス規制が実施されたことにより、日本の自動車産業が躍進した事実をご記憶の方は多いと思いますが、情報システムの開発についても、ある程度の規制を導入することにより、一層の発展が期待できます。現在の情報システム開発は無法状態で行われているため、システム開発の発展が阻害されていると思います。