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開発ツールと作業標準
 
 「開発するシステムの種類と開発方法論」で書きましたが、1970年代までは、ソフトウェア開発ツールといえば、コンピュータ言語がすべてでした。コンピュータ開発の黎明期には機械語を記号化しただけのアセンブラ言語は生産性を大幅に向上させました。その後開発されたCOBOL言語やFORTRAN言語は画期的な大発明でした。これらの言語は自然言語(英語)に似せた構文を持ち、記憶し易く、アルゴリズム表現を格段に容易としました。

 アルゴリズム表現が自在にできるようになると、次に問題となってきたのは、システム構築の問題です。たくさんの同様のシステム開発が行われているので、どうにかして生産性を向上させるツールを用意できないかという問題です。

 ここで取り上げる開発ツールとは、事務処理系の業種システム(販売管理、生産管理、・・・)に対するものです。

 1970年代はまだバッチ処理が大勢を占めていた時代で、これからリアルタイムオンラインシステムの時代に入ろうとしていました。大型汎用機にスター型に接続された端末機から大型機上で動作するプログラムを使用して、業務システムを実現するものです。

 顧客システムで共通的に使用するプログラムは、端末機に表示するスクリーン(画面)、各種帳票を印刷するフォーム(書式)、データベースを使用したデータ処理の3つに分類できることが分かっていました。

 データ入力・更新・検索業務は、端末に画面を表示する→画面にデータを入力する→入力されたデータを大型機上で処理する→処理結果を端末の画面上に表示するという一連の動作で行われます。1つのシステムで使用する数百に及ぶ画面を、見た目通りに設計できるようにしたのが画面設計ツールです。

 また、請求書、給与明細等の帳票は顧客毎に様々な書式が必要となります。これらの帳票設計をCOBOLで表現するのは大変骨の折れる仕事です。帳票についても、1つのシステムでは沢山の帳票が必要となります。これらを画面上で見た目通りに設計できるようにしたのが帳票設計ツールです。

 データ処理については、画面設計や帳票設計ほど生産性を上げる決定打が見つかりませんでした。しかし、業務を分類すると10数種類のプログラムパターンが存在することが分かり、パターンプログラミングツールが開発されました。画面上に業務部品となるテンプレート(ソースプログラム)を表示し、個別システムで必要となる個所を変更することにより、完成させるという考え方の開発手法です。

 事務処理系のシステム開発支援ツールは基本的にこの3つの部分をバックボーンとして体系化したツールです。

 時代は変わり、道具立ては代わりましたが、上記のシステム開発支援ツールの基本構成は変わっていません。しかし、画面、帳票、データ処理をつなぎ、一連の業務処理として動作を自動化する方向に発展してきました。システムの基本動作部分は組み込まれていますので、枝葉となる個々の画面や帳票、データ処理を組み込めば、システムは部分的にせよ動作可能になっています。その結果、システム開発の後工程の生産性は大幅に向上されました。

 この便利さに、実は気をつけなければならない点が隠されています。それは、システム開発支援ツールの特性を良くわきまえて利用しなければならないと言うことです。システム開発支援ツールはシステムの骨組みが組み込まれていますので、既定の制約条件に従っている限り、生産性が向上できますが、制約条件を無視すると、全く逆効果となるのです。

 このような問題を回避するためには、使用する予定のシステム開発支援ツールの特性について、適用事例を参考にして予め調査し、開発者全員が認識しておく必要があリます。当該システム開発支援ツールが、要求仕様設計、外部仕様設計、構成仕様(構造仕様)設計、詳細仕様設計、コード化、テストに対して、どのように影響するかを調べ、作業標準として規定しておく必要があります。

 システム開発支援ツールを導入しさえすれば、生産性が向上するなどと単純に考えることはできません。システム開発支援ツールは作業標準と密接に関係しているのです。