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日本のソフトウェア産業の振興・地域活性化について
  

 今回はITプロジェクト管理考としては少々ずれた話になりますが、ソフトウェアが重要な基幹産業であることをはっきりとさせておくべきと考え、敢えてこのテーマを取り上げました。
 現在、我国には都市部と地方との格差など、解決しなければならない問題があります。
 私は、都市部と地方の格差やそれに起因するいろいろな問題解決にソフトウェアの役割は非常に大きいと考えています。
そのことを述べるために、先ず、具体的な状況の一端と、経済産業省の報告書について紹介します。

1.都市と地方の格差問題

 都市部に人口が集中し、地方が疲弊してきた。
 住民基本台帳を基にした調査が新聞に掲載された。記事のうろ覚えであるが、首都圏、中部、大阪の人口は増加傾向だが、その他は減り始めた。特に人口減率が高いのは秋田県、その他の県も減る一方。北海道を見ると、40年前も今も道の人口はおおよそ500万人だが、札幌の人口は約80万人から約190万人に増えている。その差分は道内の地方都市:小樽、旭川、釧路、函館、帯広などの人口減に相当。仕事がないので皆札幌に集まってきている。同じことが、首都圏、中部、大阪と他の府県との間に当てはまる。人がいなくなれば疲弊するのは当たり前。

その原因は、

1) 農業の国際競争力の低下
2) 製造業の工場が海外に移転
 *大幅な生産性向上により、日本に工場を戻した事例もある。
3) 公共事業の大幅縮小
公共事業の効果が次第に薄れてきた。つまり、ダム、道路、港湾などはある程度充足。その後の投資効果がある公共事業が地方に見いだせない。 *山林や海への投資は今後必要だと思う。

などである。地方が疲弊しても、都市部は生き残れるかを考えると、先ず食糧自給率は現在の40%から更に落ちて、完全に他国に依存し、他国の論理で揺さぶられることになる。また、製造業の担い手はいなくなるので、日本はサービス業に大幅シフトしなければならなくなる(現在でもサービス業はGDPの70%)、そしてサービス業の生産性は低い。サービス業だけで生きていくことは人口の少ないシンガポールのような国でなければ無理である。更に現在の経済の首都圏集中は地震などのリスクが大きく、リスク分散が必要である。

 以上から見えてくることは、「都市部と地方の連携」の必要性です。都市部は:営業/経営/商業/官公庁など情報集積から利益を得る部門、地方は:研究/開発/工場/農林水産業などオペレーショナルな部門と役割を分担し、人が移動することが必要ではないでしょうか。連携の手段は既に発達した物理的なインフラと社会システムなどのソフトインフラです。
 地方の方が暮し易いのは現在でもいえることです。安くて快適な住宅、歩いても行ける通勤、空気、水、景観、人情、何をとっても都市部からなくなっているものが地方には存在します。地方にもっていける産業から地方に移転して、都市部とネットで連携し、都市部と地方が一体となった社会システム、企業システムで仕事をする方が、国も企業も生産性を上げられると思います。競争力の源泉は都市部と地方の役割分担を考慮した一体化にあると考えます。

2.経済産業省発行の白書 「工場立地及び工業用水審議会 工場立地調査部会中間報告」

    中心市街地活性化における都市型産業の役割
    (http://www.meti.go.jp/report/data/g71202bj.html

 この資料を読んで、日本が戦後経済復興のため、食糧と肥料・電力、造船・海運に資源を集中させたいわゆる傾斜生産が実り、その結果生じた都市部への過密を避けるため、昭和30年代後半以降近年に至るまで都市部から地方へ工場を移転する政策を実施し、成功を収めてきたことがわかる。しかし、その後地域の「産業立地条件の国際競争力」向上を実現すべく「地域産業集積活性化法」(H9年)が施行されたが、成果が出ず、グローバリゼーションの波に飲み込まれて、対策を打てずにきたというのが実情ではないか。

 上に述べたことを考慮して、ソフトウェア産業について考えるとき、下記を念頭におかなければなりません。

a) ソフトウェアは他の産業のインフラである
 (戦後経済復興時の電力・海運等に相当)
   ・ 組込ソフトウェア(製品の一部)
   ・ ソフトウェア製品
   ・ 企業システムのインフラ
   ・ 企業間システムのインフラ 
   ・ 社会システムのインフラ
b) ソフトウェアは他産業と連携しなければ発展しない
d) ソフトウェア開発は他の産業を振興させる手段
d) ソフトウェアは都市部と地方とを連携させる手段

 このように、ソフトウェア産業は他産業と密着して存在するものであり、また他の産業を活性化させる力を持っています。

 都市部と地方とがそれぞれの役割を担って一体となり、日本経済全体の国際競争力を上げることが必要となっています。 言い換えれば、日本のあらゆる産業の大幅な生産性向上が必要となっています。ソフトウェアは国全体の生産性向上の手段として、大変重要な役割を果たします。

 電力・道路・鉄道・港湾・空港・ブロードバンド通信などハード面のインフラはかなり整ってきましたので、これらを活かしたソフト面のインフラを構築するのが今後の課題であると考えます。ソフトウェアはそのソフト面のインフラを実現する手段です。

 以上のことが実施されるならば、日本のソフトウェア産業の振興に、大いに役立つものと思います。