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断末魔の叫び
 
 2008年8月3日のNIKKEI NETに、富士通が東証トラブルを受け障害対策専門組織を発足させたという記事が出ているのを読んで、ここまで来たかと驚いています。「経験豊富な技術者を約20人集め、東証をはじめ大規模な社会インフラシステムの障害防止や復旧支援を手掛ける」とのこと。東証の問題はITプロジェクト管理の常識からすれば「あとの祭り」なのです。2,3ヶ月の仕事で失敗したのではなく、長期間かけて構築したシステムですから、管理を怠らなければこのような事態に陥らない手立てを打つタイミングはいくらでもあったはずです。かくいう私自身、ある泥沼プロジェクトの原因を作ってしまった張本人ですし、また、そうしたプロジェクトの救済に何度も駆り出され、馬車馬のように働いた経験から、その舞台裏が手に取るように分かります。富士通に限らず、大手システムプロバイダーは口いっぱいに仕事を頬張って、消化しきれずにいます。ITゼネコンの多重下請けのトップの企業としては仕事を断れないのかもしれませんが、能力以上の仕事を受注してしまったつけが今来ているのでしょう。戦線拡大を続けてにっちもさっちも行かなくなっているのではないかと思います。私は、この記事を大手システムプロバイダーの断末魔の叫びと受け取っています。

 こうした問題の主因はITユーザ企業にあります。大手なら信用できると信じ過ぎているのではありませんか。たとえ問題を起こしても大手なら最後までなんとかするという「安心感」で大手に発注する傾向があります。はっきり言って、大手に発注しても実際に仕事をするのはその下請けです。大手はプレゼンテーションは旨いが、技術力は今や下請けの方にあります。そろそろ最後の責任を自分で取る覚悟をして、ITプロジェクト管理は自分の責任で行わなければならない状況にきています。

 ITユーザ企業は本来業務の根幹となるシステムをなぜ大手システムプロバイダーにまかせっきりにするのでしょうか。汎用機の時代と異なり、今日では、情報技術はユーザ企業もシステムプロバイダーも何ら差別なくもつことができ、やる気さえあるならば大手システムプロバイダーに任せなくてもできる環境は揃っています。ユーザ企業のシステム開発は、大手システムプロバイダーにとってプロジェクトかもしれませんが、ユーザ企業は本業そのもので、プロジェクトではありません。つまり、期間限定の仕事ではなく、継続性が要求される仕事です。継続性が要求される本業を大手システムプロバイダーにまかせっきりにすることを止めて、自ら主体性をもってシステム構築と保守を行う体制に変えなければなりません。ITユーザ企業さん! 目を覚ましてください。ITユーザ企業自ら主導的に動き出せば、他人が起こしたトラブルに煩わされることはなくなります。そして、どう見ても異常な日本固有の多重下請け慣習が解消される方向に向かいます。このことはITユーザ企業にとっても良いことです。富士通系とかNEC系とかの縛りなしに、優秀なシステムプロバイダーを選択することができるようになるからです。